『お金の寓話ー感情編①』未来を怖がるたぬきと、井戸のカメ

ある森のはずれに、小さなたぬきが住んでいました。

昼間は元気に木の実を集めたり、葉っぱのベッドで昼寝をしたりしていましたが、夜になると、心がざわざわして眠れなくなるのです。

「今は困ってない。でも、いつか困るかもしれない。」

「お金も、仕事も、体も…未来がこわい。」

そんな夜、たぬきは森の奥にある古い井戸のそばに座っていました。

そこに、ゆっくりと歩いてきたのは、甲羅に苔を生やした年老いたカメでした。

「眠れないのかい?」とカメが言いました。

たぬきはうなずいて、未来の不安をぽつりぽつりと話しました。

カメはしばらく黙って聞いていました。

そして、井戸の水をすくいながらこう言いました。

「未来は、誰にも見えない。だから怖いのは当然さ。

でもね、未来は“今”の積み重ねでできるんだよ。

だから今できることを、ひとつずつ拾っていけば、

その先にある未来は、きっと“今”の延長線になる。」

たぬきは井戸の水を見つめました。

そこには、自分の顔が映っていました。

少し疲れていたけれど、ちゃんと生きている顔でした。

「じゃあ、今できることって…?」

たぬきが聞くと、カメは甲羅から小さなノートを取り出しました。

「これは“未来ノート”。

今日やったこと、感じたこと、ちょっとした工夫。

それを毎日書いていくんだ。

未来を心配する代わりに、今を記録する。

それが、未来への手紙になる。」

その夜から、たぬきは未来ノートをつけ始めました。

「今日、木の実を3つ拾った」

「お金のことを考えて、少し怖くなった」

「でも、カメの言葉を思い出して、深呼吸した」

未来はまだ見えないけれど、たぬきの心には、

小さな灯りがともっていました。

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