
ある森のはずれに、小さなたぬきが住んでいました。
昼間は元気に木の実を集めたり、葉っぱのベッドで昼寝をしたりしていましたが、夜になると、心がざわざわして眠れなくなるのです。
「今は困ってない。でも、いつか困るかもしれない。」
「お金も、仕事も、体も…未来がこわい。」
そんな夜、たぬきは森の奥にある古い井戸のそばに座っていました。
そこに、ゆっくりと歩いてきたのは、甲羅に苔を生やした年老いたカメでした。
「眠れないのかい?」とカメが言いました。
たぬきはうなずいて、未来の不安をぽつりぽつりと話しました。
カメはしばらく黙って聞いていました。
そして、井戸の水をすくいながらこう言いました。
「未来は、誰にも見えない。だから怖いのは当然さ。
でもね、未来は“今”の積み重ねでできるんだよ。
だから今できることを、ひとつずつ拾っていけば、
その先にある未来は、きっと“今”の延長線になる。」
たぬきは井戸の水を見つめました。
そこには、自分の顔が映っていました。
少し疲れていたけれど、ちゃんと生きている顔でした。
「じゃあ、今できることって…?」
たぬきが聞くと、カメは甲羅から小さなノートを取り出しました。
「これは“未来ノート”。
今日やったこと、感じたこと、ちょっとした工夫。
それを毎日書いていくんだ。
未来を心配する代わりに、今を記録する。
それが、未来への手紙になる。」
その夜から、たぬきは未来ノートをつけ始めました。
「今日、木の実を3つ拾った」
「お金のことを考えて、少し怖くなった」
「でも、カメの言葉を思い出して、深呼吸した」
未来はまだ見えないけれど、たぬきの心には、
小さな灯りがともっていました。